ギャップ
- マサ7110
- 2018年4月29日
- 読了時間: 2分
人は「ギャップ」に惹きつけられる。ヤンキーが捨て犬を拾ったりするところを見て「こいつ根はいいやつなんじゃ?」と思ったりするあれである。
人間の外面と内面に生じる差を目の当たりにした時、人は心の柔らかい所を締め付けられるのだ。いわゆる「ギャップ萌え」という現象である。
あれは7年ほど前の話、電車で実家に帰省中の私は、ギャルの集団に出くわした。
ギャルの語源は 「gambler of loser.」訳すと「敗北者の賭け」である。学力社会の敗北者である若者がその反抗心から、派手なメイクや格好をし、ファッション業界への賭けを始めたことからその名がついたという事実は世間ではあまり知られていない私の作り話である。
座席に座る私の目の前には、4人のギャルがいた。仮に彼女らをA~Dのアルファベットで呼ばせてもらおう。集団のリーダーは、その中でもひときわ派手な装いのAであった。
静かな車内で彼女らはその存在意義を示すかのようにしきりに騒いでいる。 その姿はインドネシアのバリ島で行われる呪術的な舞踏劇である「ケチャ」を彷彿させた。
うっとおしく思いながらも、「私はここにいるよ」という彼女たちなりの叫びなのかもと思うと、なんだか切ないものがあった。
ある駅でDが降りた。すると、恐ろしいことに残った3人はDの悪口を言い出した。次の駅でCが降りると今度は二人でCの悪口をいう始末。生まれ変わっても女にだけはなりたくない。
そして、Bが降り、ギャルはリーダー格のAだけになった。「マジヤバイネ!!パネェ!!オツカレ!!」とお別れの呪文を唱え終わると、Aは空いていた座席に腰を掛け、おもむろにカバンからあるものを取り出した。
夏目漱石 『こころ』
彼女はページを開き、しおりを取り出す。ギャルの世界からゆるりと文学少女の世界に移動した。私の心の柔らかい場所が、キュッと締め付けられる音がした。
「 精神的に向上心のないものは馬鹿だ。」この『こころ』という作品のキャッチコピーともいえる一文である。彼女はどのような気持ちで、先ほどの友人たちとつるんでいるのだろう。心から彼女達を信頼しているのだろうか。本当の彼女はこっちなのか、あっちなのか。こっちの彼女の向上心守るため、馬鹿のフリをした彼女を盾にしているのかもしれない。
次の駅で私は降りた。彼女は今頃何をしているだろう。
「 私は死ぬ前にたった一人で好いから、 他人(ひと)を信用して死にたいと思っている。 あなたはそのたった一人になれますか。 なってくれますか。」
『こころ』の一文である。私は心を惹かれながらも、その一人になれなかった。だって顔がタイプじゃなかったから。
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